「本機色校正」だから信用していいのか……というとそうでないこともある、というエントリです。
だいたいまともなんですけどね。たまにあるから油断できない。
キングof色校正、本機校正
校正の中でも「色」を見るためのものを「色校正」といいます。単に「色がついてる校正紙」じゃーなくて、印刷製品の見た目をできるだけシミュレーションして、色についてもっとああしたいこうしたい言えるだけの精度をもった校正のことです。
ご予算に応じて次のように分かれております。………が、これ印刷会社の商品であって、商品としていろんな呼び方してたりします。ですので同じ用語であっても違うものを指していることもあるので、必ず確認してください。
DDCP
direct digital color proof。インキを使わない校正専用機。本紙に出せるもの、専用紙(印画紙)のものがある。そろそろ材料も販売終了してきている。コンセンサス(コンセ。商標)が代表的。色が合うか……っていうと微妙なんだけどいろいろ利点はあった。
インクジェット校正
大体は大判インクジェットをキャリブレーションして使う。で、これをDDCPと呼ぶことも(会社も)ある。基本的に専用紙だが、本紙に出せるものもある。きちんと調整されたもので、用紙など印刷条件が合っていればそれほどズレることはない……んだけど、ちょっと条件が変わると「……え?」ってくらい違うのが出てきたりする。
オンデマンド校正
レーザープリンタをキャリブレーションして使う。これをDDCPと呼ぶことも(以下略)基本的に専用紙。本紙に出す所もある。これもインクジェットと色味の特徴は近い。
平台校正
紙は本紙で、本番同様インキを使う。ただ印刷機の構造自体が違うので、本番と同じ色にするには熟練の技術が必要。
本機校正
「本番と同じ印刷機」を使って、本紙に本番と同様に印刷するため、他のようにシミュレーションではない。
とされる。本番と同じ印刷機……かどうかは聞いてみないと。基本的に同じ機械を使うはずなんだけどね。
本紙校正
本機校正なら本機と言うので、それ以外の印刷方式で本番と同じ紙を使って出しました、という色校正。
これが本当に千差万別で、「適当なレーザーにA3に切った本紙を通して、本紙校正です!と言い張るもの」から、「きちんと調整されたインクジェットプリンタなどを使って色をシミュレーションして本紙にプリント」したものまであります。ほんとに(大汗
……といろいろある中で、本機色校正は別格!とされています。シミュレーション精度的にも、もちろんお値段的にも。
最近は本機校正をすぐ出してくれる所も増えているようで何よりです。
本機色校正……で気をつけるところ
例えばページものならこんなのが出てきますね。
離れる見開きも出てくるので、折って見開きにしたとききちんと色を合わせる、というのも印刷の腕だったりします。ズレてるようなら、まずは印刷で合わせるように言いましょう。どうしても合わせられない場合もありますが、まずは印刷でやることです。
注意点。本番と同じ面付け(折った時にページ順になるような配置)でなければ色校正の精度はかなり落ちます。予算無いから必要なページだけを本機色校正にしよう……とやると、本番で泣くことになりがちなので気をつけてください。なぜ?という話は印刷屋さんに聞いてみてね(聞いた時に納得させられる説明をしてくれる所なら、信用できるでしょう)。
色の調整は、画像に戻って行う
「ここらへん印刷で赤み抜いてよ」はやらないのが基本です。
印刷は、何かしらのターゲットに合わせて標準印刷を行い、色校正を出します(普通は。色校正でインキの盛りを変えるようなことやらせたらダメですよ)。
「本機色校正」は「印刷したらどう出るのかをチェックする」もの、つまり、指標、基準です。ゴールを動かしたら訳分かんなくなるのと同じ。変えちゃいけません。赤みがかってるならPhotoshopまで戻って調整しましょう。
※印刷起因のものなら印刷で調整してもらいますが、その判断は経験がないとできません。
印刷立ち会いで色調整するのも、カラマネの流れであれば例外対応で、「ああ印刷で調整させちゃった………」と恥じるべきものだと思います。
ちゃんとした明かりの下で見る
超重要。キャリブレーションしていないモニタで画像を見ちゃいけないのと同様、適当な、基準に合ってない光では本機校正の意味は半減します。
よく「お客さんの見る環境の光で校正できるようにして」と言う方居ますが……
じゃ、そのお客さんのお客さん、つまりエンドユーザーも、その適当な会議室の明かりと同じ光で見るんでしょうか?「分からない」が答えじゃないでしょうか。ユーザの観察環境は千差万別で、どんな光で見るかは分かりません。
そのために基準があり、印刷業はみんな同じ基準の光で製品を見ています。基準があるからこそ、どの明かりの下に持っていっても及第点取れるように調整できるので、最初からブレたらどうしようもない、と思いますよ。
そして……
きちんと刷られているか確認する
本題きましたw
色(ベタ濃度、中間濃度)が薄い、濃いは印刷で修正可能な場合があります。通常の調整範囲であれば。
ただ次のような場合、出ている色は絶対に印刷では再現できなくなります。
本当はこうあるべきものが、
(例えば)こうなっている場合。
……さて、この色校正に「くすみトル」とか「シアン抜く」とか書いちゃっていいもんでしょうか?
ダメです。
なぜならこれは、印刷の不具合で、二度と同じような出力を再現できないからです。
この不具合を、「オフセットダブり」と言います。
ダブりとは
オフセット多色印刷では原理的に「常に」発生しています。通常、印刷精度が非常に高いため、許容範囲内に収まっているだけ。
まず簡単にオフセット多色印刷のしくみを見てみましょう。図はオフセット印刷機械を横から見た概念図で、矢印の方向に用紙を搬送します。
このように、KCMYの順にインキを刷り重ねていきます。
このとき、Kで紙に刷ったインキは、Cユニットに行くまでには全く乾燥していません。べたべたしてます。
乾いていないので、例えばKユニットで紙に刷ったインキは、Cユニットのブランケット胴にも転写されます。Cユニットのブランケット胴にKの絵柄が転写され続け、当然CユニットでもKのインキが用紙にうっすら刷られます。
正常であれば、全く同じ位置に転写されるため、問題になることはありません。
シアンの次のマゼンタ胴に転写されたシアンインキがどうなるか見てみましょう。
ユニット間で用紙搬送に問題があると、少しズレた所に、後胴に転写されたインキが刷られます。
そうすると、ハンコを「タンターン♪」っと二重に捺してしまった時のようなズレが全体に出てきます。
こんな感じ。
こうなると、当然この色は濃度が上がってしまいます。それでくすんだり、濃くなったりしていた訳ですね。
これは不具合なので、二度と同じようなダブりは再現できません。
つまりこういう色校正に赤字を入れても、全く無駄、ということです。
ところがこれ、割とよくある不具合にもかかわらず、見つけにくいんですよ……
これ、正常。
これ、異常(ダブり)。
色以外に見分けつきますか?
もうちょっと拡大してみましょう。
正常。
異常。
これくらい拡大すると、「シアンの網点がなんか、二重になってる………?」のがなんとなく分かると思いますが、老眼だとキツいですね。
もっと拡大して見るためには、ルーペが必要です。
最も性能が良くて安いお勧めはこれです。
あと、校正の紙の端に、色玉(コントロールストリップ)が必ず刷られていますが、
この中にダブりの確認用の色玉が付いていることがあります。こういうの。
縦横の万線が、離れて見ても同じ濃さに見えるようなら正常に印刷されています。これがダブると、
縦線より横線が太くなるので、離れて見ても濃度差で異常であることが分かります。
ただこれが無い色玉もありますから、ルーペは一本持っておくといいと思います。身を守るために。
そんなにダブりって出るもの?
はい。
美術書クラスだとあまり見ませんが、普通にそこらにある印刷なら、25倍ルーペで10冊覗いたら1冊くらいは「おっとぉ……」と引くくらいのダブり、あるはずです。それくらいよくある不具合です。
で、「色校正」ならちゃんとチェックして出してくるのが当たり前。
って思いますよね? 違うんですよ。
これだけポピュラーな不具合だと、発生していることに気づかないまま流れて来ちゃう……ということも起きます。だって人がやってんだから。
もし本機色校正結構やってるなら、過去のもの全部覗いてみてください。「……あっ!………」って思うようなもの、一つはあるんじゃないかな。
こういう再現不可能な不具合の出た「色校正」に赤字入れてしまう、取り返しのつかないことをする前に、覗いてチェックするのもデザイン・制作の責任かと思います。
「仕事でちゃんとやってるはず」で信用しすぎるのも無責任、ですからね。
というわけで、ルーペ、買おう!