K100%は「濃いグレー」か?
日本に限って言うならはっきりと、「いいえ。違います」
アメリカでもイタリアでも「濃いグレー」と言い切ってしまえるほど薄くはありません。イタリアで見た印刷物はモリモリ加減が印象的でした…米国印刷の写真集やペーパーバックの表紙なども墨ベタは「黒」でした(ジュンク堂、三省堂等でも洋書が手に取れます。ペン型ルーペだと当てて見るので痕がついてしまいますが、繰り出しルーペで覗いてみてください)
PhotoshopカスタムCMYKのインキ設定(インキの色特性を盛りも含んだ値で設定するところです)から拾えるKのLab値を見てみましょう…すると、
▲意外にもSWOPが一番濃い。
本当に欧米の墨刷りは薄いのだろうか?海外での印刷に関わったことがないので、正直分かりません。マスター郡司はああ言ってるけども確認してみたいところです…教えてください…(;´д`)
あと…オフセット印刷で刷られるものは、オペークホワイトも金・銀も含めて「全て」半透明です。オフセットインキの顔料比率で、オフセット印刷で盛れる程度の被膜厚さでは完全な下地の隠蔽は不可能です(黒い紙にオペークや金銀刷るとはっきり分かります)
墨オーバープリント/ノックアウトをコントロールするためのK100+CMY数パーセントはリッチブラックではなくRIPとお話するためのテクニックの一つです。ここでは「リッチブラック乱用はちょっと考えよう」をネタにします。
少なくとも、日本では、墨ベタは「黒」、間違いなく黒です。
お手持ちの雑誌などの墨ベタは「濃いグレー」に見えますか? コート・マットなどの塗工紙であれば、しっかりと黒いはずです。
K100%にCMYを混ぜる「黒」を「リッチブラック」と言いますが、これを「純粋な黒」と言ってしまうとちょっと、どうかな、と。
だって黒いんだもん、しっかり。まるっと鵜呑みにしちゃうととてもマズイと思いました…
それでももっと黒くしたいなら
いろいろなデメリット(もちろんメリットも)考えた上でデータを作る必要があります。
まず、印刷でのズレ。
▲横目の紙に多面付けしたイメージ。下が「咬え」で印刷機の通し方向です(20130717図ミス差し替え)
図は極端に動かしていますが、例えばA4を菊全判に8面付けて印刷した場合、全ての面が同じ「ズレ」(見当)にはなりません。CMYK各色の印刷ユニットでまったく同じ条件で伸びるとも限りません。
紙は、伸びるに任せるといくらでもズレていきます。印刷機は紙が伸びることを前提に、これを印刷機の機構やオペレータの技術で抑え込んでいます。
画像はいろんな本から撮ったズレ。
▼上質紙本文(雑誌)
▼マット紙本文(デザインのひきだしより)
▼コミックス表紙(All You Need Is Kill)
▼同上
これらは、今まで私が覗いてきたものの中ではきれいな印刷の部類に入ります。それでも最大0.1mmはズレる。
…これを見て、リッチブラック地に白抜き文字を気軽にデザインできるでしょうか。
なんらかの対策が必要ですね。白抜きの場合なら、下図のようにしたりします。
▲文字にトラッピングした例。墨ノックアウトのフチをつけ、ズレても他の色が出てこないように加工しています。
白抜きでなくても同じように何らかの加工をします。
最近はあまり見かけませんが、WEB漫画を印刷したコミックなどでよくフキダシ文字がズレまくって読み辛くなっているのを見かけたことはありませんか。あれはRGB画像を文字含めJapanColor2001Coated等でCMYK分解したためRGB黒がリッチブラックになり、ほんの少しズレただけで物凄くみっともない感じになっちゃった例です。
次に、CMYK合計値が印刷方式や用紙に対して多すぎる場合のトラブル。
あまりに「リッチ」な黒を上質紙などの非塗工紙に印刷すると、裏移りはもちろんですが、黒のベタ面が「もやもや」したり不規則に白く輝く模様ができたりして、触るだけで手が真っ黒になったりすることもあります。
コート紙、艶々の紙でも、インキ量が多すぎると逆にツヤが失われることもあります。これは紙質や印刷条件により変動し、刷ってみるまでどうなるかは分かりません(経験的にこれはどうなる「だろう」ということは言えても)
また、特にエスプリコートのような紙でベタ面を多くすると、印刷機内で激しくカールして傷付き歩留まりがもの凄く悪くなることもあります(これを印刷で回避するには様々な準備工程が必要です)元々カールしやすい紙ですし。
リッチブラックとは印刷表現、印刷機側ではじめて実現する表現方法であり、工程を想わずに気軽にしていいことではない、と個人的には考えています。
もちろんメリットも
昔は「墨濃くするならC40%も入れりゃ十分だ」なんて言われてました。またはCM40%とか。
わざわざ入れる理由は、K100%ベタ面だけだと印刷で僅かな紙紛等のゴミでベタ面に白ヌケができた時にものすごく目立つから他の色を入れて目立たなくする=歩留まり向上、というものです…これは今でももちろん、有効な技術です。
また上質紙等の非塗工紙では、印刷後乾燥するとインキの艶が失われ、「沈み」という色が浅くなる現象が起きます。これを抑えるためにもK100%に他の色を入れることは有効です(ただし、入れ過ぎ厳禁)
まとめ
デザインの一技法としてのリッチブラックを否定するものではありませんが、「本当に諸々のデメリットのリスクをデータ作成者として引き受けてでも必要なのか」はよく考える必要があると思います。
また「リッチブラック」のCMYK値は「コレ」と決まった数字があるわけではありません。
DICやTOYOのカラーチャートには墨との掛け合わせもありますので、必要な色味を確認したり、上に挙げた歩留まり向上の目的なら印刷会社に%を聞く、など、やはり印刷会社との相談が必要かと思います。
割とお勧めなカラーチャートはこちら